二十メートルほど離れたところに見える翠葉の後ろ姿――とはいっても、車椅子の背もたれに隠れて見えるのは肩から上のみ。
 俺の手には缶コーヒー。
 そのコーヒーを飲みながら、感慨深げに見ていた。
「驚いた……」
 それが正直な感想。
 少し前までは秋斗先輩を好きな自分自身にうろたえていた。が、今は「ツカサのことが好きだったのかな」と頬を赤らめて話すものの、普通に口にした。
 翠葉の中では、まだ初恋もしていないことになっているのだろう。
 けれど、実際のところはもう初恋は経験済みだ。
 覚えていないけど、感覚的に心か身体が覚えているのだろうか。
 だから、あんなにも自然と「好き」という言葉を口にできたのだろうか。