「いや、会える……。でも、記憶が――秋斗先輩と司の記憶だけがなくなっちゃったんだ」
『…………』
「桃華たちのことは覚えてる。今日、司には会った。それでだいぶ落ち着いてはいるんだけど、やっぱりふたりのことは思い出せないみたいで」
『どうして――』
「それ相当のストレスがかかったんだろうって……。今までにも何度かこういうことはあったんだけど、ただ、数時間の記憶がなくなる程度で、こんな大きな記憶障害は初めてなんだ」
 そう――何かショックなことが起きても、そのこと事体を忘れることはなかった。
 丸ごと人まで忘れたのは今回が初めてのこと。
 それだけ、司と秋斗先輩は翠葉の中でイコールに近い存在で、心を占めている人間だったのだろう。
『何か話したらいけないこと、ありますか?』
 桃華はあくまでも冷静だった。