翠葉の病室を出て、携帯が使えるゾーンまで移動する。
 記憶が欠如していると気づいたときの取り乱し具合はひどいものだったけど、今はかなり落ち着いている。
「司のおかげ、なのかな」
 遅めの昼食を摂ったあとに少し休んだ翠葉は、司が来たと起こしたときに少し取り乱したものの、司と話し始めてからはずいぶんと落ち着いて見えたし、声にも張りが感じられた。
 屋上から帰ってきたときに聞こえた翠葉の大声にはびっくりした。
 それは俺だけではなく唯も母さんも。
 ナースセンターにいた湊さんと藤原さんも顔を見合わせ笑みを浮かべたほどだった。
 秋斗先輩の取った行動がどれほど翠葉の負担になったのか――。
 それは記憶を失うほど、だ。