「司、なんかあったのか?」
 ケンがおずおずと寄ってくる。
 それもそのはず――。
 俺はインハイを目前に、的を外すようになっていた。
 昨夜の藤原さんの電話に加え、今朝の出来事。
 動揺するのには十分すぎる出来事だった。
「悪い、ちょっと抜ける」
 弓を置いて弓道場の外に出ると、意外な人物がいた。
「調子が悪そうだな」
「えぇ、全然中(あた)らなくて」
「少しいいか?」
 訊かれた、というよりは、「ついてこい」と言われた気がした。
 静さんが向かった先は桜香庵だった。