エレベーターに乗り、十階に着く。と、ガラス戸の向こうに車椅子に座った娘がいた。
 距離にして十メートルほど。
「翠葉が起きてる……」
 感動的な再会だというのに、そんなことしか思いつかなかった。
 この二日、翠葉が寝ている時間にはこっそりと家族総出で顔を見にきていた。
 目にできるのは寝ている翠葉だけだった。
 目を開けていない、横たわっている娘。
 静かな寝息だけが生きていることを教えてくれる。
 けれど、今は起きている。
 車椅子に座り、大きな目をしっかりと開けた翠葉がそこにいる。
 こっちを、俺を見ている。
 俺は、まるで吸い寄せられるように翠葉のもとまで歩いた。