駐車場から娘がいる棟を眺め、車にロックをかけて面会通用口へと向かった。
 ……とは言っても、面会時間は終わっているわけで、俺、警備員に止められたりするのかな?
 とりあえず、九階へ連絡を入れてもらえれば大丈夫だろう。
 そんなことを考えながら、まだ熱気を感じる空気の中を歩く。
 現場との温度差にうへぇ……となったのは数日前のこと。
「下界は暑い、空気がまずい」
 そんな仙人のようなことを口にした自分を思い出す。
 通用口の警備員に事情を話すと、問題なく通された。
 どうやら、あらかじめ神崎先生から連絡が入っていたようだ。
「慣れちゃったよなぁ……」
 ぼやきつつ、見慣れた廊下を進む。
 一年前のこの時期には翠葉はもうここにいたんだ。
 四月を迎える前から……。
 今、翠葉は何を思ってここにいるのだろう。