「あのね、昇さんに言われたの」
 俺は本を閉じ、顔を上げる。
「言葉で傷つけたくないからって遠ざけている私は、遠ざけた時点ですでに傷つけてるって……。ノックアウト。その言葉だけでノックアウトだよ」
 翠はつらそうに、それでもわずかな笑みを浮かべる。
「傷つけたくなかったのに、もうすでに傷つけてるなんて……。しかも、一番ひどい傷つけ方だって言われた」
 吐き出すように言葉を口にしては、身体に力が入るのがわかった。
 両肩とも少し上がり、腕が震えている。
 その先にある手は、力いっぱいに布団を握っていた。
 言葉で何かフォローできたらよかった。
 でも、人間関係のあれこれをフォローできるほど、自分が得意な分野でもない。
 むしろ、苦手な分野。
 だから、せめて力を抜いてほしくて翠の手に自分の手を重ねた。