図書館を出ようとしたとき、後ろから走ってくる音が聞こえた。
「こんなところではなく自宅でしたら私語も大丈夫ですよっ?」
 掴まれた腕を払う。
「それになんの意味が? 俺が見るのは勉強であって私語をするためじゃないんだけど」
「それは――」
「だいたいにして、出した宿題もやってこないのに家庭教師を付けることに何か意味があるとでも? 俺には茶番にしか思えない」
「だって、夏休みだものっ。別荘へも出かけるし、お友達のパーティーにも呼ばれるわっ」
「それが何か? 別荘に宿題を持っていけないわけじゃないし、パーティーだって連日朝から晩までやってるわけじゃないだろ? 詰まるところ、やる気があるのかないのかの問題だと思うけど」
 そこまで言うと、女は口を噤んだ。