「違いますよ? ただ、今だけ司先輩は私のわがままに付き合ってくれることになってるんです」
 翠が答えれば、昇さんは意味深な視線を俺によこす。
「……単なる八つ当たりアイテムですよ。いわばサンドバッグみたいなもの」
 こんな言い方じゃカモフラージュにすらならないだろう。
 あぁ、また俺の感情に気づいた人間が増える。なのに、気づいて良さそうな人間――翠は気づかない。
 ふと気づけば、翠から責められるような視線を投げられていた。
「夜なら屋上に行けばいいだろ? あそこなら翠が好きな花も植わってるし、今日の天気なら星だって問題なく見える。この間教えた星座の話でもすれば?」
「あ、それなら大丈夫そう……」
 視線は改まり、表情も変わる。
「おまえ、翠葉ちゃんの扱い方うまいね?」
 含みある声音に、この人も面白がる面倒な人間だったかと認識を改める。