九階、ナースセンター前で軽く会釈をし翠の病室に目をやると、ドアは開いていた。
 寝ているのを起こすのは嫌でそっと中へ入る。と、翠は体を起こし携帯を耳に当てていた。
 その携帯を目の前にかまえては、「どうしようかな」と口にする。
「ここ、携帯禁止だけど」
「あ……」
 俺に気づいた翠は急に涙を零した。
 なんで――。
「なんだよ、そんなにきつく言ってないだろっ!?」
「違……。先輩が目の前にいたから」
「……は? とりあえず携帯」
 携帯を取り上げると、電波マークは一本も立っていなかった。