中庭に出ると、私の好きな木のもとまで車椅子を押してくれた。
 今日はふたり揃ってその木の根元に腰を下ろした。
 もう太陽は高い位置まで昇っているけれど、大きな木の下には日陰ができており、芝生の上はひんやりとしてとても気持ちがいい。
 吹き抜ける風はビル風のようなものに類似するけれど、風景に緑があるだけで、そうとは思わない。
 ここにも少しハーブが植わっている。
 それを見ていると、お姉さん――唯兄の大切な人を思い出すことになる。
「なんか寂しそうな顔をしているな」
「……ここで会ったことがあるお姉さんが亡くなったって、つい最近知ったものですから……」
「そうか、残念だったな……」
 初めて昇さんの曇った声を聞いた気がした。