最後まで言う前に、「わかってるよ」と蒼兄が口にした。
 視線をソファの方へ向けると、
「父さんから聞いてる。どんなこと言われても一時間で忘れればいいんだろ?」
「ったくさぁ……人間そんな器用にできてたら苦労しないよ」
 唯兄だけが咎めるようなことを口にした。
「でも、それでも平気よ……。そのときはそれが本音だったとしても、時間が経てばそれは本音ではなくなるのでしょう?」
「お母さん……」
「側に、いさせてね……? お母さん、そのくらいの仕事はしてきたんだから」
 どこか不安そうに笑う。
「……ありがとう」
 ちょっと不安定な空気のところへ、トン、と音がした。
 それは唯兄がカップをテーブルに置いた音。