エレベーターへ続く廊下を車椅子に乗せられながら、
「なんとなく、なーんとなくわかったぞ。何が起爆剤になってるのか。……名前、だよな?」
 そう尋ねられたとき、エレベーターのドアが開いた。
「自分の周りにいた人間の名前が出るたびに泣いてるよな?」
 その答えは"Yes"だった。
「なんで、っていうのは今朝の話に戻るわけだよな? ひどいことを言いたくなくて傷つけたくないから会いたくないってやつ」
 コクリと頷く。
「でも、会いたくないって言ってる時点でみんな傷ついてると思うぜ?」
 一階に着いて扉が開くと、閑散としたロビーに出た。
 そこから真っ直ぐに中庭へ出る。
 西日を遮る建物があるとはいえ、五時はまだまだ暑かった。
 というよりは、昇さんが口にした言葉が熱されたコンクリートとか鉄みたいに熱くて――熱くて熱くて呑み込めない言葉で……。
 でも、火傷してでも呑み込んで、きちんと消化しなくちゃいけない言葉だった。