先輩は不機嫌な表情で帰っていき、病室に慣れない人とふたりきりになった。
 窓の外に目をやると、午後の陽射しが眩しかった。
「今日の最高気温は三十五度らしいぞ」
 先生はいつの間にか、司先輩が座っていたスツールに腰掛けていた。
 ……神崎先生って呼べばいいのかな。
 栞さんには申し訳ないけれど、少し怖くて苦手だ。
「あのさ、俺は正式な君の主治医じゃないんだ。仮の主治医。正式なのは俺よりも柄が悪いから俺で慣れておいたほうがいいぜ?」
 面白そうに口にしては、その先を話し始める。
「ヤツは来月の第二週までには帰国すると思うんだが……」
 と、明確ではない時期を口にする。
「それまでは俺が君の主治医。ま、本格的な治療は正式な主治医が帰ってきてからになるけど、その場しのぎの処置は全部俺がやることになってる。小船に乗ったつもりでいろ」
 小船って――小船って小船って……。
 不安になっていると、神崎先生はにやりと笑った。