翠が好きなハーブティーを淹れると、場にそぐわない穏やかな香りが漂った。
 お茶を注いだカップを持ってソファへ移動すると、一口飲んでから口を開く。
「医者だって完璧なわけじゃない。どのくらい入院期間を要すかなんて入院する前からはわかるわけないだろ。それに、いつ退院できるかは基本患者のがんばりしだいだ。……まさかとは思うけど、翠はこのままがいいのか? だから病院へ行かない?」
 翠は唇を震わせ、鋭い視線だけを俺に向けていた。
「俺は何もわからないけど、ただひとつだけわかっていることがある」
「何よ……」
「ここにいるよりは断然早くに回復が出来る場所。それが病院だ」
 そろそろ決着をつけないとまずい。
 翠の身体が持たない――。
「だから、嫌なのっっっ。白い部屋、四角い窓、窓から見えるだけの外。空調完備された屋内っ。全部嫌っ」
 喋っているからなのか、俺が入ってきたときよりも息が上がっていた。