「何か文句でも? 翠がもてなしてくれるなら待つけど」
「無理なことばかり言わないでっ。早く出てって」
 翠は手元にあったものをこちらへ投げやる。
 けれど、それらはベッドのすぐ脇に音を立てて落下した。
「物に当たるな、部屋が傷つく。それから出ていけって要求は呑めない。どうやら俺が最後の砦らしいから」
 絶対零度と言われる笑みを向けると、ケトルが音をたてて沸騰したことを知らせた。
 火を止め、布巾に置かれていたカップに視線を移す。
 カップがふたつ――。
「翠も飲む?」
「……いりませんっ」
「あぁ、そう」
 わかってはいたけれど、取り付く島はないらしい。
 実際、上体を起こしているのもかなりつらそうだ。
 ここまでくると、意地、かな……。
 それが最後の力の源か――。