「あぁ……俺は医者でもなんでもないからな。いつ退院できるかなんて知らないな」
 冷笑を浮かべて言い返せば、翠の目つきが一際きつくなった。
「そんな人にとやかく指図される覚えはありません」
「……どうかな。相手が俺でも医者でも変わらないんだろ? 姉さんは免許を持った歴とした医者だけど、姉さんの言う言葉にも耳を貸さないって聞いた。……つまり、単なるわがままだろ」
 さぁ、どう出る……?
 このままここに立っていても埒は明かない。
「お茶もらうから」
 入って左にある簡易キッチンでケトルを火にかけた。
「なっ……」
 何か言葉を発するのかと、肩越しに振り返ると、翠はただただ驚いた顔をしていた。
 やつれても、表情の豊かさは変わらないらしい。
 "豊か"なんて表現からはかけ離れた状況だけど……。
 でも、間違いない。
 これは翠、だ。多重人格でもなんでもない。紛れもなく、翠だ。