「そうよ。……話は車の中で」
 ふたりに背を向け、駐車場へと歩き始めた。
 ちらりと肩越しに後ろを見れば、栞がとても嬉しそうに笑っていた。
 こんな顔を見たのも久しぶりだ。
 それだけでも一緒に迎えに来て良かったと思える。
 きっと幸倉へ戻れば笑顔は消える。
 車の中では翠葉の話になる。
 駐車場までのこの短い距離くらい夫婦水入らずで話をさせてあげたかった。

 ここ数日で翠葉の体力は著しく低下し始めている。
 体重も限界まで落ちているはずだ。
 落ちる肉などもうほとんどないだろう。
 毎日のように点滴をしていても、体内の水分量は足りていはいない。
 その影響か、不整脈の頻度が上がってきている。
 それなのに、今となっては点滴をしている、というよりはさせてもらっている、そんな具合だ。