『幸倉に行けば若槻や蒼樹にも言われると思うけど、今まで私たちが見てきた翠葉だとは思わないで。それだけはわかっていて。無暗に近づこうとはしないこと』
 よくわからない言葉を最後に通話が切れた。
「蔵元……俺、翠葉ちゃんのところに行ってきていいかな」
「……よろしくないのですか?」
「うん、結構やばいみたい」
「……でしたら、シャワーを浴びたら少しお休みください。徹夜明けの運転は認められません」
 涼しい顔をして携帯を取り上げられ、バスルームに押し込まれた。

 彼女がまだ俺を好いてくれているのなら、説得の余地はあるかもしれない。
 このときの俺は翠葉ちゃんがどんな精神状態で、どんな行動に出るのかなんて全く予想もしていなかったんだ。
 ――というより、誰があんなことを予想できただろう。
 数時間後には、車の中で放心する羽目になるとは、このときただの一ミリも思っていなかった――。