ポケットから携帯を取り出し父さんにかける。
 五コールしても出なければ切る。それが約束。
「……出れない、か」
 滴る水を腕で拭い、ベンチに座り込む。
 すると、すぐに携帯が震え始めた。
「父さんっ!?」
『悪い、今なら大丈夫だ』
 きっと人のいないところまで移動してくれたのだろう。
「俺、限界――母さんを連れて現場に戻ってくれなんて言ったけど、本当に、もう無理……。あんな翠葉は見てられない」
『……いや、蒼樹はよくがんばってくれた。父さんたちは蒼樹を頼りすぎた。悪い……』
「なんかさ、例年と違うんだ……。症状も翠葉の対応の仕方も……」
『あぁ、会話を聞いていて父さんも感じてはいた』