「いや、起きてたから問題ないけど――」
 訊きたいことはたくさんあった。けれどもそれを口にする前に、「先輩」と言葉を遮られる。
『お願い、十を数えてください』
 じゅう……?
 意味がわからず返答に戸惑っていると、今にも泣き出しそうな声で翠が一気に話しだした。
『自分で何度も数えたの。でも、だめだった……。お願い、十、数えてください』
「何かあった?」
『何も訊かないでっ。……お願い』
 話なら聞いてやれるのに、それすら拒否された。
「……わかった」
 切羽詰まっていることは十分に伝わっていた。それと訊かれたくないという意思も伝わった。
 ならば、俺ができることは数を数えることのみ……。