ふと目に入ったのは今上がってきたばかりの階段。
 その階段を静かに振り返った。
「それはつまり……氷の女王撤回ってことでいいのか?」
 俺は俺なりに階段を上ってこれているのだろうか。
「……そうですね。でも、あれは氷の女王スマイルだと思いますよ?」
 そんな会話をしていると終業チャイムが鳴り、前のドアから佐野が出てきた。
 佐野に点滴スタンドを預け、教室のドアを閉める。
 三階への階段を上る前に、今上がってきたばかりの階段に目をやる。
 俺は翠の中で今どのあたりにいるのだろう……。
 翠が歩く速度のようにゆっくりでかまわない。
 少しずつでいいから、翠に寄り添えたらそれでいい。