薄味で少量。小鉢がいくつも並ぶ料理。
 まるで懐石――。
 彼女が喜びそうな料理が目の前に並ぶ。
 それらを美味しいと思うこともなく、ただ口へ運ぶ。
 ここに彼女がいたら、きっとそれだけでどんな食べ物も美味しく感じるのだろう。
 そんなことを考えていると、携帯ではなくルームコールが鳴った。
「はい」
『澤村です。お食事中申し訳ございません。たった今、楓様が秋斗様のお部屋へ向かわれましたので、ご連絡を入れさせていただきました』
「ありがとうございます」
 受話器を置き首を捻る。
「楓、なんの用だろ……?」
 薬はまだあるし、今は七時を回ったところ。
 部屋をノックされドアを開けると、紛れもなく楓が立っていた。