もし、入学式の日に翠と会わなかったとして、ただ海斗と同じクラスというだけだったならば……。
 ……気づいたと思いたい。
 こんなに血色が悪くて具合の悪そうなやつはそうそういない。
 こんなのが廊下に転がっていたら間違いなく拾う。
 そんなことがきっかけで出逢っていたかもしれない。
 でも、そのあとは今とさして変わらないのだろう。
 人間として興味を持ち、惹かれる……。
 必ず好きになっただろう。
 どうしてか、そのことには疑いを持たない。
 翠は――?
「……あの日図書棟で会わなかったら、翠の視界に俺はいつ入ることができた?」
 問いかけても翠から返事があることはない。
 穏やかな寝息を確認してから手を放し、足元に置かれていたタオルケットを翠にかけて部屋を出た。