光のもとでⅠ

 いつかの光景が脳裏によみがえる。
 学校のテラスで胸もとを押さえて痛みに耐えていたあの日を。
 けれど、今は痛みではなく恐怖心――。
 たぶん、男性恐怖症的なものだ。
「兄さんか若槻さん呼ぼうか?」
 俺がだめならそのふたりしかいない。
 姉さんは学校、栞さんは実家――残るは美波さんか。
 頭の中で算段をたてていると、翠が首を横に振った。
 どうしたらいい? こういうとき、俺はどうしてきた?
 ――確認、か。
 俺は自分の手を翠の前に差し出した。
「……手は?」
 涙の溜まった目で俺の手をじっと見ては、すぐに右手が重ねられた。
「……わかった」
 手を重ねてくれた事実よりも、すぐに動作に移ってくれたこと。そのことに安堵した。