携帯を切ると、
「翠葉んとこ?」
「そう。俺が戻ってくるまでに、それ、完璧にしておくように」
「鬼っ」
「いつも三十分のところを一時間やるんだ。優しいくらいだろ?」
「…………」
「夕飯がかかってるんだからできないわけがないよな?」
「……でき得る限りのに努力してみようと思います」
 海斗は口をへの字にして問題に戻った。
 海斗はなんだかんだ言いつつも性根は腐っていないし基本は素直だから教えやすい。
 間違える場所もわかりやすいし、対策も練りやすい。
 根っからのバカを相手にしたことはないが、素地がしっかりしていない人間を教えるのは骨が折れると思う。
 そんなことを考えれば、俺は絶対的に教師や塾の講師には向いていないと思った。
 まず、いろんな意味で忍耐が持つ気がしない。