光のもとでⅠ

 私は手に触れたハサミと携帯を投げやった。
 けれども、それらはベッドから一メートルも離れない場所に落下する。
「物に当たるな、部屋が傷つく。それから出ていけって要求は呑めない。どうやら俺が最後の砦らしいから」
 言いながら、先輩は悠然と挑発するように笑った。
 寸分の隙もない、絶対零度の笑み――。
 それに、最後の砦って何よ……。
 ピーっ、と音が鳴り、ケトルが沸騰したことを知らせる。
 すぐに音はとまったけれど、あの音は凶器だ。
 頭が割れそう……。
 手で額を押さえると、
「翠も飲む?」
 と、お茶に誘う要領で普通に尋ねられる。
「……いりませんっ」
「あぁ、そう」
 自分の声すら身体に響くのだからひどい。