「あぁ……俺は医者でもなんでもないからな。いつ退院できるかなんて知らないな」
 冷笑を湛えたあと、目つきがいっそう鋭くなる。
 ――来る。
 そうだ、この人はこんなことくらいで引き下がる人じゃない。
 でも、負けたくはない。
「そんな人にとやかく指図される覚えはありません」
「……どうかな。相手が俺でも医者でも変わらないんだろ? 姉さんは免許を持った歴とした医者だけど、姉さんの言う言葉にも耳を貸さないって聞いた。……つまり、単なるわがままだろ」
「っ…………」
 "わがまま"――その言葉に心臓が鷲づかみにされた。
 先輩が動く気配がしてはっとすると、
「お茶もらうから」
 と、部屋についている簡易キッチンでケトルに手を伸ばす。
「なっ……」
 先輩は肩越しに振り返り、
「何か文句でも? 翠がもてなしてくれるなら待つけど」
「無理なことばかり言わないでっ。早く出てって」