「リィ、何がそんなに嫌なわけ?」
 唯兄は天蓋からは出たみたいだけれど、明らかにまだ側にいた。
 ポキポキ、と骨が鳴ったから、ベッド脇にしゃがみこんだのかもしれない。
「嫌なことはたくさんあるよ。でもね……何が一番嫌かというなら、人を傷つけて自分が傷つくことが嫌」
「……わかった。俺、ここで仕事するから、タイピングの音くらいは許して」
 それには何も答えなかった。
 本当はタイピングの音だって痛みに響く。
 けれど、唯兄は私をひとりにするつもりはないらしい。

 少しうつらうつらとできただろうか……。
 ここのところ、痛みで夜に眠ることもままならなかった。
 湊先生がかなりたくさんの睡眠薬を処方してくれている。
 それは栞さんや唯兄、蒼兄の管理のもとで飲んでいた。