「翠葉……頼むから、スープだけでいいから飲んでくれ」
 ベッドの脇で懇願しているのは蒼兄。
 蒼兄が持っているスープの匂いに吐き気がする。
 早く出ていってほしい。そのスープをこれ以上私に近づけないでほしい。
 こんなにつらいのに、みんなは私に食べろ、飲め、と言う。
 私の苦痛を知りもしないで……。
 ……こんなつらさを体験してほしいとは思わないけれど、知らないくせに、と思う私は本当は何を知ってほしいのだろう。
「蒼兄……お水だけもらえる? その匂いに吐き気がしてだめみたい」
 できるだけ穏やかに、普通に言葉を吐き出す。
「翠葉っ、いい加減にしろっっっ」
 めったに声を荒げない蒼兄が大声を出す程度には、こんなやり取りを繰り返しているのだ。
「リィ……はい」
 と、プラスチックのカップに氷水をすぐに用意してくれたのは唯兄。