「……何度言っても足りない気がするから、何度も言いたいんです」
 先輩は足を止めてため息をついた。
「俺はそのたびに返事をしなくちゃいけないんだけど」
 なんとなく面倒って顔。
 それでも、この先輩は言われるたびに答えようとしてくれているのだ。
 そんなところも司先輩の優しい部分。
「先輩、ひとつ謝罪」
「何」
「先輩は格好いいけど意地悪、じゃなくて、格好良くてすごく優しい人、です」
「…………」
「……先輩?」
 司先輩は一瞬下を向いてから、今上がってきた階段を振り返った。
「それはつまり……氷の女王撤回ってことでいいのか?」
「……そうですね。でも、あれは氷の女王スマイルだと思いますよ?」
 そんな会話をしているとチャイムが鳴り、教室の前のドアから佐野君が出てきたところだった。
 佐野くんはびっくりしつつも司先輩から点滴スタンドを受け取り、窓際の席まで付き添ってくれた。