「手を見せて」
 と、右手を取ると爪のチェックをされた。
「栄養状態も良くなければ水分補給も足りてない。点滴するわよ」
 湊先生はもうひとつのバッグから点滴のセットを取り出して用意を始めた。
 消毒をしながら訊かれる。
「こっちに戻ってきて少しは気分的に楽になったの?」
 この質問にはなんとも言えなかった。
「……だったらマンションにいれば良かったものを」
 言いながら、的確に血管に針を刺す。
「先生……栞さんは元気になった?」
「このあと様子を見にいってくる。電話の受け答えを聞いている分にはだいぶ良くなったみたいだけど」
 先生の表情がふわりと優しいものになり、それが嘘じゃないと確信する。
「良かった……」
「良かったって……あんた、人のことよりもまずは自分のことでしょう?」
「……そうは言われても、好きで痛くなってるわけでもないです」
 こんなの、八つ当たりだってわかってる。
 でも、薬が効きづらくなってきている今、不安な思いを自分の中で殺すのも難しくなってきていた。