「でも、家からでも指示は出せるから、こっちのことは気にしなくていいのよ」
「お母さん、私はお母さんが仕事してるのが好き……。出来上がったものを見に行くのが好き」
 そう言うと、お母さんは黙ってしまった。
「碧さん、明日はまだ日曜日です! 翠葉ちゃんも、もう少し考えてみて? 親なら子どもの具合が悪くて放っておける人なんていないんだから。それは自然の摂理です。翠葉ちゃんも受け入れるように!」
 向後さんの明るい声がその場を仕切り、玄関を出ていった。
 気まずい空気がその場に残る。
 その空気を一掃したのは唯兄だった。
「リィっ! 痛みがないなら今のうちにお風呂! お湯張ってきてあげるからお風呂の準備してなっ」
 そう言って背中を押された。
 それに乗じた蒼兄が、
「はいはい、そこのふたりは夕飯の片付け。テーブルにあるものキッチンに運んできて。そしたら俺が洗うから。母さんは食後のコーヒーの準備」
 唯兄と蒼兄に呆気に取られた私と両親は、なんとなしに顔を見合わせて少し笑った。
 おうちだ……。
 あたたかい家族だ――。