「うん……? ごめんなさい。食器を下げようと思ったのだけど……横にならせてもらってもいい?」
 テーブルを見ていた顔を上げ、唯兄に確認を取ると、「気にしなくていいよ」と言われた。
「静さん、ご馳走様でした。とても美味しかったです」
 それだけ伝えると、ゆっくりと自室に向かった。
 もう、一歩一歩の歩幅も靴一足分程度になっている。
 すり足で歩くようにして数歩歩くと、身体がふわっと浮いた。
「部屋まで送ろう」
 静さんの声が耳もとで聞こえる。
「やですっっっ」
 大声を出すことでまた身体に痛みが走る。
 静さんは下ろしてはくれなかったけど、理由は訊いてくれた。
「つらいのだろう?」
「……でも、まだ――まだ自分で歩けます」
 自分で歩けるうちは人を頼りたくなかった。
 できることは自分の力でやりたい。
 痛くてもなんでも、数少ないできることを手放すことが怖かった。