実家に帰っているという栞さんは気になるけれど、やっぱり今の私はお見舞いに行ける人間ではない。
 それだけはしっかりと肝に銘じよう。
「翠葉、大丈夫か……?」
 曇り戸の向こうから蒼兄の心配そうな声がする。
 いつもよりも長く入っているのかもしれない。
「大丈夫。あと少ししたら上がるから」
 普通に、いつものトーンで返す。
「倒れる前に上がれよ?」
 そんな声と共に、蒼兄の気配はなくなった。
 お風呂はいい……。
 どんなに鼻声になっていても、音の反響のせいか、ドアの向こう側にはそれすらもわからなくさせる。
 最後はシャワーで冷水と温水を代わる代わる顔にあて、瞼の腫れを引かせる。
 こんなことができるのもお風呂ならではだ。