「……蒼樹に入ってもらう? 俺はそれでもかまわないよ」
 それは甘えだろうか、失礼なことだろうか、卑怯なことだろうか――。
 私が答えを出せずにいると、秋斗さんは「ちょっと待ってね」とドアを開けた。
「蒼樹、悪い。ちょっと来てもらえる?」
 蒼兄の気配がすると、
「ダメでした?」
「いや、緊張しすぎててちょっとかわいそうだから」
 そんなやり取りが小さく聞こえた。
 蒼兄がドアから顔を覗かせると、「なるほど」と部屋へ入ってきた。
 私の隣に座ると肩ごと抱き寄せてくれ、大きな手で左肩を何度もさすってくれた。
「先輩の話を一緒に聞こう?」
 顔を覗き込まれ、コクリと頷く。
 大丈夫、大丈夫、大丈夫――。
 何度も自分に言い聞かせる。でも、効果は全然なくて息が苦しくなりそうだった。
 秋斗さんは入ってきたときと同様にドアを閉め、一呼吸おくと話し始めた。