半ば開いていたドアをノックする音。
 当たり前ながら、フローリングにはふたつの足。黒い靴下の次に見えたのはベージュのチノパン。
 学校での服装と同じ……。
 徐々に視線を上げていくと、白いシャツが目に入り、最後には秋斗さんの顔を視界に認めた。
「久しぶりだね」
 穏やかに笑みを浮かべる秋斗さん。
 優しい、秋斗さん――。
 この人に呆れられてしまうのは、嫌われてしまうのは、つらい……。
 でも、怖いの……。
 ドアを閉めても秋斗さんがドアの前から動くことはなかった。
 ドアを背に立っているだけ。
 それなのに、私はどうしてこんなにも緊張しなくてはいけないのだろう。
「あのね、これ以上は近づかないから、そこまで緊張しないでもらえると嬉しい」
 秋斗さんは優しい言葉を悲しそうな表情で口にする。
 私はコクリと首を縦に振ったけど、どうしても身体中の力を抜くことはできなかった。