その声を聞いていると、ざわざわとした心が静かになっていく。
 まるで魔法のよう。
 一から十までの単なる数字なのに、何かの呪文のように思えた。
「……八、九、十――」
 瞼の向こうが明るくなる。
「ハーブティー淹れて待ってる。最初に数学でもやって頭の回転率上げろ」
 部屋を出て行く先輩の背中をじっと見る。
 決して体格がいいわけじゃない。
 ぱっと見なら華奢に見えるくらい細身だ。
 でも、頼りになる背中だった。
 それを認めるということは、自分が周りに甘えているということ――。
 今の自分は周りに支えてくれる人がいるからここにいることができる。
 だとしたら、私は本当は自分の足では立ってなどいないのではないだろうか。
 自分だけの力だったら、本当はどこに立っているのだろう……。
 耳に残る司先輩の声でもう一度十秒を数える。
 それでリセットできる気がした。
 けれども、それは気がしただけ。
 本当は少し横に置いておいて、今は勉強、とただ考えるのを少し先送りにしたに過ぎなかった。