普通ではないことは何?
 本来あるべき姿は何?
 マンションにいるはずの人は秋斗さんと栞さんで、いないはずなのは私と蒼兄と唯兄。
 それが意味するものは何――?

 コンコン――。
「翠、起きてるって聞いたけど……?」
 ドア口に司先輩が立っていた。
「つ、かさ、先輩……」
「まだ寝ぼけてる?」
 少し呆れたような声でベッドに近づいてきた。
「何考えてた?」
「え?」
「……ろくでもないこと考えてただろ」
 ろくでもないこと……。
「あぁ、違った。俺にはろくでもないことでも、翠にとっては大切なこと、だったか?」
 先輩はベッド脇に膝をつくと、私の目に手をかざし、
「十秒だ」
「え……?」
「十秒数えたら起きて勉強」
 そう言って、低く落ち着いた声でゆっくりと数を数え始めた。