唯兄に起こされると、寝てから三時間も経っていた。
「一度起こしにきたんだけど、ぐっすり寝てて起きなかった」
「ごめん。でも、ありがとう。なんとなく頭がすっきりした気がする」
 寝ようと思えば何時間でも眠れそうな気はしたけれど、さっきよりは頭がはっきりとしていて、今なら少しは試験勉強ができる気がした。
「俺は夕方まで十階で仕事してるから」
 と、唯兄は部屋を出ていった。
 そういえば、最近は唯兄があまり死にそうな顔をして仕事をしていない。
 忙しい時期は終わったのだろうか。
 でも、秋斗さんがマンションに帰ってきたという話は聞かないし、唯兄がいつホテルに戻るという話も出ない。
「……私の、せい?」
 頭をよぎったのは自分という存在。
 誰かから、首の擦過傷の話を聞いたとか……?
 口止めをしたのは海斗くんだけで、司先輩にも湊先生にも楓先生にも美波さんにも、誰にも言わないでほしいとはお願いしなかった。
 だから、誰かが話していてもおかしくなくて、でも、言わないでくれると思っている自分もいて――。