あぁ、こんなことしてたらよくセリに怒られたっけ。
 危ないからやめなさい、って。
 バスに乗り流れ行く景色を眺めていると、途中から見慣れた風景に変わっていた。
 前はよくバスに乗って病院に通っていた。
 こんな時間帯に行くことはなかったけど……。
 病院に着くと十階まで上がる。
 厳重なセキュリティをパスして警備員待機室にいる人たちに会釈して、高級感プンプンの廊下をひとり歩く。
 蔵元さんにあらかじめ聞いていた部屋を訪ねると、実に退屈そうな顔をした男がひとり。
「おっはよーございますっ」
「……若槻にしては早起きだな」
「御園生兄妹と生活を共にしているとこうなるわけですよ。……んなわけで、今俺九階に寝泊りしてます。怒んないでくださいね」
「……怒りはしないけど。おまえ、大丈夫なのか?」
 明らかに俺を気遣う言葉。
「大丈夫みたい、かな? 自分でも何がどうして大丈夫なのかはサッパリなんですけど」
 本当に何がどうしてこんなに冷静で気持ちが穏やかなのかは俺が知りたいくらいだ。
 この病院へ来ることだってなんの抵抗も感じなかった。
「もう少し、あの兄妹に混ぜてもらうことにしました」
「そうか……大変じゃないか?」
 この人、片や愛しい女の子。片や優秀で信頼できる後輩に混ざって大変じゃないか、って訊いたよね?
 それ、ちょっとどうなの……?