司はクローゼットに寄りかかり、表情を変える様子は見られない。
 秋斗先輩は激怒――かな。
「蒼樹、俺がここにいることが翠葉ちゃんにばれるようなことがあったら、おまえがどこにも就職できないようにしてうちの会社に入れるからなっ」
 それ、いったいどんな手を使うんですか……。
「司、ほかには言ってないだろうな」
「先に言った。秋兄が暇を持て余して仕事をしたいんじゃないかと思ったから連れてきた」
 確かに、秋斗先輩は基本パソコンがあればどこでも仕事ができる人だ。が、場合によっては莫大な資料を要する。
 それは多岐な分野にわたっており、普段からこの人の仕事のやり方を知っていないと資料を集めるのは困難を極めるだろう。
 俺はというと、もう三年ほど秋斗先輩の資料整理をしている。
 唯に求められるくらいにはエキスパートというところだろうか。
「あの……険悪なムードのところ大変申し訳ないのですが、先輩はどんな状態なんでしょうか」
 なんていうか、目にした瞬間はすごく心配したし、何が起こったんだ、と焦りはしたものの、目の前で展開される言い合いには呆気に取られてしまった。
 見たところ、重病人には見えない。
 何、ただの盲腸とか?