飛鳥が降りると来た道を戻る。
 この道を真っ直ぐいけば私の家までは五分くらい。右に曲がれば佐野を先に降ろすことになる。
 どうしたらいい……?
「ねぇ、佐野くん。バスの時間って何分?」
「え? あぁ、この時間だとあと七分ですね。そのあとが十五分後」
「じゃ、先にバス停に行こう」
 そっか……。
 バスの時間なんて気づきもしなかったわ。
 こういうところまで気を遣える蒼樹さんはやっぱりすてきだと思う。
 佐野が車を降りると、
「彼、律儀だね?」
 と、言われる。
 振り返れば、佐野が頭を下げていた。
 頭を上げると、「サンキュ」と口が動いたのがわかった。
「そうですね……」
 とりあえず、私には頭が上がらないというところだろう。
 後部座席のふたりはさほど話をしていたふうではない。
 けれども、佐野はそれでも嬉しかったのだ。
 片思いってそんなものよね……。
 今、私が蒼樹さんの隣に座っていることを嬉しいと思うように。