「翠葉、おまえはさ、おまえの速度で歩けばいいんだ。何も秋兄に合わせることないよ。こういうのって人に合わせるものじゃないし。むしろ自分のペースを守ったほうがいいと思う」
 そんなふうに想ってもらえたら、女の子は幸せよね。
 飛鳥はぼけっとした顔で海斗を凝視していて、それを見て肩を落としていたのは佐野だった。
 佐野は飛鳥が好きだし、飛鳥はずっと海斗しか見ていない。
 海斗はといえば、今まで誰かとどうなったという浮いた話のひとつも聞いたことがない。
「えっ!? なんで泣くのっ!?」
「あ……」
 気づけば翠葉が泣いていた。
「バカね……。誰も翠葉が悪いなんて思ってないし、翠葉の気持ちがおかしいなんて思ってないわよ」
 ハンカチを差し出すと、それを目に当て涙をしみこませるように拭き取った。
「ただ、すごく新鮮ではあったけど」
 佐野が言って笑う。
「翠葉、好きーっ! 早く学校に出てきてね」
 飛鳥は言いながら翠葉に抱きついた。