「なぁ、司って触っただけでわかるのか?」
「それっぽいことを姉さんと兄さんにやらされてる」
「じゃ、俺もっ!」
「無理」
「ケチっ! ってもしかして生徒会か何か?」
「それもある」
「なんだ、また家絡みか?」
 返事はせずに自分の弓を取りに立ち上がった。
 少し貧血っぽいか……?
 めったに感じることのない眩暈を感じつつ、道場を横切り立てかけてある弓に手を伸ばす。
 これを手にすると落ち着くのはいつの頃からだっただろうか。
 秋兄が弓道を始めたのが中学のとき。つまり、俺が三四歳の頃だ。
 紅子さんは頻繁に家を空けていて、秋兄が学校から帰ってくるのがうちであるのは当たり前のことだった。
 幸い、家は並んで建っており、どっちに帰るのにも時間的差は生じない。
 何か差があるとしたら、灯りが点いている家に帰って来るか点いていない家に帰ってくるか。
 そのくらいのものだろう。