弓道場には先客がいた。
 笹野健太郎(ささのけんたろう)、俺と同じ二年。
 中学まではバスケ部所属だったのに、何を思ったのか高校から弓道を始めた男。
 この間の球技大会では全種目同じものに出ていた。
 実際、バスケはケンがいなければ勝てなかっただろう。
 クラスではムードメーカー的な存在で、部活でも後輩に慕われる男だ。
 先輩たちの受けもよく、普段は軽いのりだがここへ来ると人が変わったように神経集中に身が入る。
 神拝を済ませ、ケンの矢を射るように見ていた。
 足踏み、胴造り、弓構え、打起こし、引分け、会、離れ、残心――。
 すべて型は悪くないのに一向に的に当たらない。
 ここへも俺が来る前から来ているくらいだ。練習量も相当なものだろう。
「あぁ、司来てたのか。声くらいかけろよなー」
 話題が的に当たらなかったことにならないよう、どうしようか、といった感じだ。
「型はきれいだと思う」
「マジっ!?」
「八節を逆行する練習もしてるんだろ?」
「してる……。前に司に言われたからさ。でも、当たんないんだよねー」
 ほかに何の問題が……?
 重心か?