光のもとでⅠ

 タクシーでマンションへ戻ると、エントランスで崎本さんに迎えられる。
「秋斗様、おかえりなさいませ。……お顔の色が優れないようですが?」
「……単なる飲みすぎです」
 自嘲気味に笑ってその場を去ろうとすると、
「大変恐縮なのですが、美波が秋斗様に用事があるらしく、家に寄ってほしいと申していました」
「なんだろう……? わかりました。今、ちょっと寄ってみます。蔵元は先にうちへ行ってて」
「かしこまりました。何かございましたら携帯を鳴らしてください」
「了解」

 エレベーターが九階に着くと、蔵元と別れて崎本家へ向かう。
 ゲストルームに目をやると、彼女の部屋には電気が点いていなかった。
 寝ているのか、それともリビングにいるのか……。
 そんなことを気にしつつ、崎本家のインターホンを押した。
 ドアはすぐに開かれる。
「いらっしゃい」
「こんばんは。用事ってなんでしょう?」
 美波さんは珍しく疲れた顔をしていた。
「立ってするような話でもないから上がって? 今コーヒー淹れたとこ」
 コーヒーは無理しても飲める気がしない。
 でも、それを言う気にもならなかった。