あのあと、少し翠の勉強を見て、血圧が下がってきたところを見計らって切り上げた。
 それにしても海斗のやつ……。
 相変わらず読解不能なノートの取り具合だ。いくら速読速記が備わっているからとはいえ、人に見せるノートにあれはないだろう。
 ゲストルームを出ると、隣のポーチに明かりがついていた。
「くあぁ~……今日は楓くん家にいるんだ?」
 さっきまで寝ていた海斗が大あくびをしながら言う。
「そうらしい」
 姉さんはカレンダーに大まかなスケジュールを書いているため、だいたいの行動が読めるけど、兄さんに関してはノータッチだ。
 基本、ポーチに灯りがついているかついていないかで在宅と不在を判別する程度。
 ここにいなければ藤山の家か病院だろうから、連絡がつかないこともなければ困ることもない。
 海斗と十階で別れ姉さんの家に入ると、時刻は九時前だった。
「コーヒー淹れて適当に勉強するか……」
 携帯を見れば発熱した翠の体温が表示されている。
 血圧も低いといえば低いものの、翠の通常値からすればさほど悪い数値でもない。
 熱もしばらく見ていて上がらないようであれば、あれ以上上がることはないだろう。
 そんなことを思いながらキッチンへ向かい、コーヒーメーカーをセットした。