夕飯を食べ終え、美鳥さんが帰り支度を始めると、翠が咄嗟に立ち上がろうとした。
 考える間もなく手が伸びる。
「不注意すぎ」
 翠の右手首を掴み制すると、翠はとても気まずそうな顔をした。
 あれだけ毎日御園生さんに気をつけろと言われていてこの様だ。
 御園生さんの心配症が過剰になっても仕方がない気がしてくる。
「翠葉くん、ここでかまわないよ。あぁ、そうだ。これは君にあげよう」
 美鳥さんから翠に渡されたものは、小さいスティック状のものだった。
「うまく活用するといい」
 翠はキャップを開けてはすぐに閉めてしまった。
「それ何?」
 俺と海斗が翠の手にあるものを覗き込むと、その視線から守るように握りしめ、「秘密兵器」と小さく笑って答えた。
 気にはなるものの、翠が笑っている。
 それだけでいいと思えた。
 そう思ったのは俺だけではないらしい。海斗も追随することはやめたようだ。
 別に特別なことは望んでいない。
 ただ、目に届くところで笑っててくれさえいればそれでいい。
 今は、それでいいんだ――。