「翠葉、大丈夫かな……」
 前を歩く海斗が後ろ髪引かれるようにドアを振り返る。
「大丈夫なわけ、ないだろ……」
 あの拒絶のしようだ。
 単に恥ずかしくて……というようにも感じなくはなかった。でも、蹲った翠は震えているようにも見えた。
「秋兄のやつ、やりすぎだっつーの。相手が翠葉なんだからもうすこし考えりゃいいものを」
 それは違うかな……。
「相手が翠だから――だからああいう手段に出たんじゃない?」
「は?」
 秋兄の性格を考えれば、わかるような気がしなくもない。
 廊下先のキッチンから栞さんが顔を出していた。
「翠葉ちゃん、何かあった?」
「……栞ちゃん、超怒りそう……」
 それには同感だ。
 それでも海斗はバカ正直に話す。
「秋兄がさ、翠葉にキスマークつけた」
「……なんですって……?」
 栞さんは頬のあたりを引くつかせながら笑顔をキープする。